最後まで『自分だけが知らない暗証番号』をお読みいただき、ありがとうございました。
今回の物語で描きたかったのは、金庫の中身そのものではなく、**「自分の記憶はどこまで信用できるのか」**という小さな疑問です。
自分で買ったはずなのに、覚えていない金庫。
自分で設定したはずなのに、知らない暗証番号。
そして、自分の字で書かれた、
「絶対に金庫を開けるな」
という警告。
普通なら、「金庫の中に何が入っているのか」が最大の謎に見えると思います。
しかし本当の謎は、
「なぜ過去の自分は、未来の自分に金庫を開けさせたくなかったのか」
という部分にあります。
圭介は最初、自分の記憶に何か異常が起きているのではないかと考えます。
けれど調べていくうちに、記憶そのものが消えていたわけではないことに気づきます。
分からないことがあると、人は理由を探します。
そして証拠が足りなければ、無意識のうちに自分が納得できる物語で空白を埋めてしまうことがあります。
「覚えているから正しい」
「覚えていないから起きていない」
それもまた、自分の中で作られた物語なのかもしれません。
だからこの作品では、人が死ぬ事件も、大きな犯罪も起こりません。
あるのは、小さな金庫と暗証番号、そして過去の自分が仕掛けた謎だけです。
金庫の扉を開けることが、この物語のゴールではありません。
なぜ開けてはいけないのかを、自分自身で推理すること。
そこに、この物語の答えを置きました。
最後に圭介が書いた、
「知らない」と「忘れた」は違う。
そして、
「覚えている」と「正しい」も違う。
この二つの言葉が、読み終えたあとに少しだけ残ってくれたら嬉しいです。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

