最後まで『いつも先に借りている人』を読んでいただき、ありがとうございました。
この物語は、
「自分が借りる本の貸出カードに、なぜか毎回同じ人の名前がある」
という小さな違和感から始まりました。
今では図書館の貸し出しもバーコードやコンピューターで管理され、昔ながらの貸出カードを見る機会は少なくなりました。
けれど、あのカードには不思議な魅力があります。
自分より前に誰がこの本を読んだのか。
いつ借りたのか。
何年も前の名前が残っていれば、その人はどんな気持ちで同じページをめくっていたのか。
そんなことを想像できます。
本そのものだけではなく、**「その本を読んだ人の時間まで残っている」**ように感じられるのです。
本作では、その貸出カードをミステリーの入り口にしました。
どの本を選んでも先に現れる「水城澪」という名前。
すでに卒業しているはずなのに、最近の日付で残されている貸出記録。
図書館の本に隠された暗号。
十四年近く前に学校を去った高瀬琴音。
そして、水城澪の正体。
最初は少し不気味だった「いつも先に借りている人」という存在が、最後には別の意味を持つように物語を組み立てています。
この物語で描きたかったのは、謎を解くことだけではありません。
誰かが残したものを、別の誰かが見つけること。
その人が途中までしか進めなかったとしても、続きを引き継ぐ人が現れるかもしれないこと。
言葉も、本も、記録も、ときには人の思いまで、時間を越えて誰かへ渡っていく。
そんな物語にしたいと思いました。
最後に相沢湊が貸出カードへ自分の名前を書く場面も、そのためにあります。
高瀬琴音。
水城澪。
そして相沢湊。
それぞれが違う時代に同じ本へ触れ、一枚のカードの上でつながりました。
「いつも先に借りている人」は、決して主人公の先回りをしていた人だけではありません。
主人公が生まれるより前からそこにいて、いつか誰かが続きを見つけてくれることを待っていた人でもあります。
もし古い図書館で、昔ながらの貸出カードが残っている本を見つけたら。
そこに書かれた名前を、少しだけ眺めてみてください。
あなたが今手にしているその一冊にも、
ずっと前から、
続きを読んでくれる誰かを待っている物語が残されているかもしれません。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

