2026-09

長編ミステリー

『闇螢』第一部 帰郷

第一章 祖母の葬式祖母が死んだのは、蛍の季節が終わったころだった。八月二十二日、土曜日。午前六時十三分。蛍守村の診療所から電話を受けたとき、僕はまだ東京のワンルームにいた。「相沢澄江さんが、今朝亡くなられました」受話器の向こうの声は、驚くほ...
短編ミステリー

『甘い眩暈』あとがき

『甘い眩暈』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回の物語では、「甘いものを食べると、約二十分の記憶が消える」という奇妙な現象から物語を始めました。チョコレートを食べたあと、時計を見ると二十分ほど進んでいる。キャンディーを口に...
短編ミステリー

『甘い眩暈』甘さの向こう側

八月十八日、火曜日。朝になっても、圭介は昨夜見つけた紙の意味を理解できずにいた。「甘いものを食べたから忘れたんじゃない。」「忘れるために、甘いものを食べた。」何度読み返しても、意味は変わらない。自分が書いた。そうとしか思えなかった。文字の癖...
短編ミステリー

『甘い眩暈』忘れたかったもの

圭介は引き出しの奥から、薄い封筒を取り出した。白い、ごく普通の封筒だった。宛名はない。切手もない。ただ表面に、自分の字で一言だけ書かれている。「最後に開けろ」圭介はしばらく封筒を見つめていた。ここまで来て、開けないという選択肢はない。それで...
短編ミステリー

『甘い眩暈』消えていなかった時間

八月十九日、水曜日。圭介は朝から、昨夜ノートに書いた一文を何度も考えていた。本当に、二十分は消えているのか?映像には、自分が動いている姿が残っている。それなら時間そのものが消えたわけではない。消えたのは、自分の記憶。そう考えるのが普通だ。だ...